「後継社長が会社を辞めた」
社長交代だけでは、事業承継は終わらない
年商8億円、利益6,000万円。
調理用品卸を営む、業績の安定した優良企業でした。
創業37年。
65歳の創業社長が、一代で築き上げた会社です。
社長には3人の子どもがいました。
長男38歳、次男35歳、長女32歳。
本来なら、親族内承継の選択肢が十分にある会社に見えます。
しかし、現実はそう簡単ではありませんでした。
長男とは絶縁状態
創業社長は非常に強いリーダーシップで会社を引っ張ってきた、典型的なワンマン経営者でした。
長男とは関係が悪化し、絶縁状態。
長女は会社員で、事業を継ぐ状況にはありませんでした。
残された後継者候補は、次男でした。
次男は入社5年目。
35歳で事業を引き継ぐ決意をします。
社長も65歳を機に事業会社の会長へ退き、次男を社長に抜擢。
自らはホールディングス会社の社長となりました。
形だけを見れば、
親から子への事業承継が無事に実現した
ように見えました。
ところが、3年後
次男が社長に就任して3年。
会長と次男社長の間で、経営方針をめぐる衝突が起こりました。
創業者には、37年間かけて築き上げた自分なりの経営があります。
一方、次男には次男なりの、
「これから会社をこうしていきたい」
という考えがあります。
しかし、その二つが噛み合いませんでした。
そして、ついに次男は決断します。
「会社を辞める」
私はこれまで数多くの事業承継に関わってきましたが、
後継社長が会社そのものを辞めてしまったケースは、私にとっても初めての経験でした。
「社長にした」だけでは、承継ではなかった
この案件を振り返ると、非常に考えさせられます。
次男は社長になりました。
しかし、本当に経営を任されていたのか。
役職は社長でも、
創業者である会長の影響力が強く残っていれば、後継社長は自分の経営をすることができません。
ここに、
「社長交代」と「経営承継」の大きな違い
があります。
会長も大きなショックを受けた
次男が退職した後、会長自身も、
「自分が次男を社長に指名した。」
その責任を強く感じられたようです。
しかし、そこで会長は社長に復帰しませんでした。
社員の中から新たな社長を選び、経営を任せる道を選択しました。
あれから約5年。
現在もその体制は続いています。
しかし、まだ残っている問題があります
経営者は社員社長へ変わりました。
しかし、
株式は実質的に創業会長が保有したままです。
つまり、
「経営の承継」は進みましたが、
「株式の承継」はまだ終わっていません。
事業承継には、
・社長という「役職」
・経営する「権限」
・会社を所有する「株式」
があります。
この3つをどう移していくのか。
そこまで設計しなければ、本当の意味での事業承継は完成しません。
この案件で私が学んだこと
私はこの案件から、改めて一つのことを学びました。
後継者を決めることより、
後継者に「任せること」の方が難しい。
特に創業社長の場合、自分がゼロからつくった会社です。
会社に対する思いも、責任感も、人一倍強い。
だから、口では
「息子に任せた」
と言えても、
実際に経営判断まで任せることは簡単ではありません。
しかし、後継者から見れば、
責任だけ負わされて、決定権がない。
これほど苦しい立場はありません。
今週の提言
「社長にすること」と、
「経営を任せること」は違います。
事業承継では、
「誰を次の社長にするか」
ばかりが注目されます。
しかし、本当に大切なのはその後です。
いつまでに、何を、どこまで任せるのか。
創業者と後継者が、それを事前に話し合っておかなければなりません。
社長にお伝えしたいこと
事業承継とは、
社長の椅子を譲ることではありません。
決断する権限を譲ることです。
そして最終的には、株式の承継まで考えなければなりません。
創業者が会社を大切に思うからこそ、任せる勇気が必要になる。
後継者を選んだら、次に必要なのは「任せる覚悟」です。
この会社の事例は、私にその難しさを強く教えてくれました。
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