今日は、私が15年以上お付き合いしている一人の社長のお話をしたいと思います。
O社長、78歳。
昭和気質を絵に描いたような経営者です。
人を簡単には信用しません。
こちらが一つ意見を言えば、十倍になって返ってくる。
「それは違う。」
「ああ言えば、こう言う。」
そんなやり取りを何度も繰り返してきました。
最初の10年間は、正直言って表面的なお付き合いでした。
仕事の話はしても、本音は話してくれない。
家族のこと、財産のこと、将来のこと…。
事業承継に関わるような話は、一切ありませんでした。
しかし、5年ほど前から少しずつ変化がありました。
私が訪問すると、「橋本君、ちょっと座れ。」と声を掛けてくださるようになったのです。
会社のことだけではありません。
趣味の話、家族の話、将来への不安。
今まで誰にも話してこなかったようなことまで、少しずつ打ち明けてくださるようになりました。
私は改めて感じました。
事業承継は、信頼関係ができなければ始まらない。
特にオーナー経営者にとって、自社株や相続の話は、お金の話ではありません。
人生そのものの話です。
だからこそ、本当に信頼できる相手でなければ相談できないのです。
私は以前から、O社長の会社には親族内承継ではなく、M&Aが最適だと考えていました。
後継者がおられなかったからです。
しかし、その提案を受け入れていただくまでには、さらに3年かかりました。
会社を株式移転や会社分割で再編し、総資産約6億円の会社を、金融資産や収益不動産を保有する資産会社と、
事業会社に整理する。
資産会社は一人娘さんへ承継し、事業会社はM&Aへつなげる。
その考え方を、何度も何度も説明しました。
O社長はメールを使われません。
資料はすべて手渡しです。
一回説明して終わりではありません。
訪問して説明し、また訪問して説明する。
その積み重ねでした。
今では、どんなことでも相談してくださいます。
「橋本君に任せる。」
その一言をいただいたとき、この15年間は決して遠回りではなかったと思いました。
事業承継は、知識だけではできません。
税金や法律だけでも解決しません。
最後に必要なのは、人と人との信頼です。
私はこれからも、提案を急ぐのではなく、まず経営者との信頼関係を大切にしながら、
一社一社の未来に向き合っていきたいと思います。
第15回:事業承継は、信頼関係がすべて
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