第18回:専門家任せの危うさ

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― 社長が理解しなければ、会社は変わらない

プライベートバンキング室で数多くの事業承継案件を担当するようになり、私は一つの共通点に気づいた。

事業承継がうまく進む会社と、なかなか進まない会社には、大きな違いがあったのである。

その違いは、会社の規模でも、利益でもなかった。

社長自身が事業承継を理解しているかどうか。

それが最も大きな違いだった。

事業承継の相談をすると、多くの社長がこう言われた。

「税理士に任せています。」

「銀行に相談しています。」

「顧問の先生が考えてくれています。」

もちろん、それ自体は悪いことではない。

税理士には税務の専門知識がある。

弁護士には法律の専門知識がある。

銀行には金融や融資の知識がある。

それぞれが専門家として重要な役割を担っている。

しかし、私は現場で数多くの会社を見るうちに、一つの危うさを感じるようになった。

社長自身が何も理解していないのである。

「なぜこの対策をするのか。」

「他に方法はないのか。」

「本当に自分の会社に合っているのか。」

そうしたことを考えないまま、専門家の提案をそのまま受け入れているケースが少なくなかった。

反対に、難しいからと何もしない会社もあった。

「まだ元気だから。」

「そのうち考える。」

「忙しいから後回し。」

その結果、自社株は年々高くなり、株主は分散し、後継者への承継も進まない。

そして相続が発生してから、

「もっと早くやっておけばよかった。」

という言葉を、私は何度も耳にした。

私は銀行員として二十八年間、多くの経営者と接してきた。

その中で確信したことがある。

専門家に任せることと、専門家任せにすることは、まったく違うということだ。

専門家は、社長が判断するための材料を提供する存在である。

最後に決断するのは、社長自身でなければならない。

会社の未来に責任を持てるのは、社長しかいないからである。

第17回で紹介したT社長は、そのことを私に教えてくださった。

自ら本を読み、自社株評価を理解し、顧問税理士とも議論しながら、自分で判断された。

だから迷いがなかった。

決断も早かった。

その後、事業承継について私がお手伝いする場面は、ほとんどなくなった。

社長自身が会社の未来を描けるようになっていたからである。

私は、その姿こそ理想だと思った。

それ以来、私の仕事に対する考え方が変わった。

難しい対策を説明することが仕事ではない。

社長に理解していただくことが仕事なのだ。

社長が理解すれば、決断できる。

決断すれば、会社は動き始める。

しかし、理解しなければ、どんなに良い提案でも前へ進まない。

現在、私が「知らないリスク」と「放置リスク」という言葉を使っているのも、この頃の経験が原点である。

知らないから決断できない。

決断しないから時間だけが過ぎる。

その結果、選択肢が少なくなり、会社の将来に大きな影響を与えてしまう。

私は、そのような会社を数え切れないほど見てきた。

だからこそ、現在も社長に最初にお伝えすることは変わらない。

「まず、ご自身の会社を理解してください。」

事業承継は、専門家が主役ではない。

社長が主役なのである。

私は銀行員時代、このことを数多くの経営者から学ばせていただいた。

そして、その学びは独立した今でも、私の仕事の原点であり続けている。

次回予告

第19回 銀行の限界、そして独立への決意

事業承継こそ、中小企業にとって最も重要な経営課題だと確信していた。

しかし、銀行という組織の中では、その思いを十分に実現することができなかった。

私は次第に、「本当に経営者の役に立つには、銀行の外に出るしかないのではないか」と考えるようになる。