実録事例シリーズ 第10回


「まったく動けない事業承継」

100年企業が抱える、本当のリスクとは

創業100年を超える老舗建設会社。

年商30億円。
利益2億円。

地域では誰もが知る優良企業です。

しかし、この会社は9年前から事業承継が止まったままになっています。



突然訪れた創業家の危機

9年前、先代社長が60歳で急逝されました。

社長には娘さんがお一人いましたが、医師のもとへ嫁がれており、会社を継ぐ意思はありませんでした。

本来であれば、この時点で会社の将来をどうするか決断しなければなりません。

しかし、そう簡単ではありませんでした。



社長になったのは専業主婦だった奥様

先代社長の死後、それまで専業主婦だった奥様が社長に就任しました。

もちろん経営経験はありません。

現在は代表権を持つ相談役という立場ですが、実質的には経営には関与していません。

日々の経営は、銀行出身の社長が担い、何とか会社を運営しています。

業績も悪くありません。

だからこそ問題が表面化しないのです。



後継者を探しても見つからない

先代社長には姉と妹がおり、その子供たち、つまり甥や姪もいます。

しかし、誰一人として経営を担える人材はいません。

親族内承継は現実的ではない。

従業員承継も難しい。

私は何度も考えました。

そして、

「この会社はM&Aが最も現実的な選択肢ではないか」

と提案しました。



奥様も理解し始めていた

何度も面談を重ねる中で、奥様も徐々に理解されるようになりました。

100年企業を残すためには、

会社を誰かに託すことも選択肢である。

そう考え始めておられたのです。

ところが、ここで新たな壁が現れました。



娘さんの猛反対

奥様が娘さんに相談したところ、

「100年以上続いた会社を売るなんてあり得ない」

と猛反対。

気持ちは理解できます。

創業家としての誇り。
父親への想い。
地域への責任感。

どれも間違いではありません。

しかし現実には、継ぐ人がいないのです。



誰も決断できない

現在も会社は存続しています。

業績も悪くありません。

しかし、事業承継は1ミリも進んでいません。

奥様は大株主であり、実権者です。

しかし、

「創業家の嫁として、自分が売却を決断していいのか」

という思いがある。

娘さんも反対している。

結果として、

誰も決断できない状態

が続いています。



この案件で私が学んだこと

事業承継で一番難しいのは、

税金でもありません。

株価でもありません。

M&Aでもありません。

「感情」です。

数字は整理できます。

契約書も作れます。

スキームも考えられます。

しかし、

・創業家の誇り
・家族の思い
・地域への責任感

これらを整理するのは簡単ではありません。



今週の提言

事業承継を止める最大の要因は、

「後継者不在」ではありません。

「意思決定の先送り」です。

会社は今日も動いています。

しかし時間は確実に過ぎています。

決断を先送りすることは、
実は何もしないことではありません。

未来の選択肢を少しずつ失っていくことです。



社長にお伝えしたいこと

事業承継は、
会社を誰に渡すかを決める作業ではありません。

「会社をどう残すか」を考える作業です。

その答えが親族内承継なのか、
従業員承継なのか、
M&Aなのかは分かりません。

しかし、まずは向き合うこと。

そこからしか未来は始まりません。

動けない事業承継ほど、実は危険な事業承継はないのです。



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