第13回 銀行合併、そして本部へ

/

― 人生を変えた一本の辞令

平成16年10月1日。

福岡シティ銀行と西日本銀行が合併し、「西日本シティ銀行」が誕生した。

福岡県にとっても、大きな歴史の転換点だった。

そして私にとっても、この日は忘れることのできない一日となる。

その年の6月、私は病気で入院した。

久留米支店で営業部門の責任者を務めていたが、突然の離脱だった。

営業の最前線を預かる立場として、長期不在は支店の業績にも影響する。

自分の体のこと以上に、そのことが気がかりだった。

入院生活が続く中、7月に一本の辞令が届く。

「人事部付を命ずる。」

現場を離れることを意味する辞令だった。

正直、複雑な思いだった。

まだ復帰の目途も立たない中での異動。

しかし、組織としては当然の判断でもあった。

7月末、ようやく退院することができた。

だが、すぐに職場復帰というわけにはいかなかった。

医師の指示もあり、8月いっぱいは自宅療養となった。

体力は想像以上に落ちていた。

少し動くだけでも疲れる。

「本当に元に戻れるのだろうか。」

そんな不安もあった。

9月から復帰するつもりで準備を進めていた。

ところが、銀行側から思いがけない連絡が入る。

「合併で忙しいので、あと1ヶ月自宅にいてくれ。」

当時、銀行は合併準備の真っただ中だった。

現場も本部も、かつてないほどの忙しさだった。

中途半端な状態で復帰するよりも、万全の状態で戻ってほしいという配慮でもあったのだろう。

こうして9月も自宅療養となった。

結果として、私の復帰は10月1日。

銀行の合併日と同じ日となった。

偶然とはいえ、強く印象に残るタイミングだった。

約二か月の入院と、二か月の自宅療養。

合計四か月近く、仕事から離れていたことになる。

久しぶりに職場へ戻ると、環境は大きく変わっていた。

銀行の名前も変わり、組織も変わり、空気も変わっていた。

そして私自身にも、大きな変化が待っていた。

復帰して間もなく、改めて正式な辞令が出る。

「本部 プライベートバンキング室勤務を命ずる。」

営業店一筋だった私にとって、本部異動は初めての経験だった。

下大利支店、二日市支店、鳥栖支店、田川支店、そして久留米支店。

十七年六か月、ずっと営業店で中小企業の社長と向き合ってきた。

まさか自分が本部に行くとは思ってもいなかった。

しかも配属先は、プライベートバンキング室。

富裕層や企業オーナーに対し、相続、資産承継、事業承継などを専門的にサポートする部署だった。

それまでの私は、「融資」を中心に仕事をしてきた。

しかし、本部では全く違う世界が待っていた。

相続税。

自社株評価。

会社法。

民法。

組織再編。

M&A。


毎日が勉強だった。


知らないことばかりだった。


営業店では「お金を貸すこと」が仕事だった。


しかし本部では、「会社の未来を考えること」が仕事だった。


最初は戸惑いもあった。


こんな難しい仕事が自分に務まるのだろうか。


そう思ったことも一度や二度ではない。


それでも不思議だった。


学べば学ぶほど面白い。


企業オーナーが抱える悩みは、融資だけでは解決できない。


株式の問題。


後継者問題。


相続。


家族間の調整。


経営者には、銀行員時代には見えていなかった多くの悩みがあった。


私は銀行員になって十八年目にして、初めて「事業承継」という世界の奥深さを知ることになる。


そして、あることにも気づいた。


多くの経営者は、会社経営には詳しい。


しかし、自社株のことは分からない。


相続のことも分からない。


だからこそ、「知らない」ことが最大のリスクになる。


これは、現在私が言い続けている「知らないリスク」「放置リスク」という考え方の原点でもある。


振り返れば、病気がなければ、この異動はなかったのかもしれない。


もし久留米支店でそのまま営業責任者を続けていたら、私は今の仕事には就いていなかっただろう。


人生とは本当に不思議なものだ。


あれほど苦しかった病気が、結果として私の人生の方向を変えてくれた。


もちろん、病気になりたい人はいない。


私も二度と経験したくはない。


しかし、あの経験があったからこそ、今の自分がある。


そう思えるようになった。


この本部異動をきっかけに、私は事業承継という仕事に深く関わることになる。


そして数え切れないほどの企業オーナーとの出会いが、私の人生をさらに大きく変えていくのである。


次回予告


第14回 事業承継との出会い


一つの相談が、私の価値観を大きく変えた。


「社長、このままでは会社が続きません。」


私は初めて、事業承継という仕事の本当の重みを知ることになる。