第16回 私の人生を変えた事業承継

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― 「もっと早く相談していれば…」という言葉

プライベートバンキング室で事業承継に携わるようになってから、
多くの企業オーナーとお会いする機会に恵まれた。

会社の規模も業種もさまざまだった。

年商数億円の会社もあれば、数百億円規模の企業もあった。

しかし、会社の大きさに関係なく、どの経営者にも共通する悩みがあった。

「事業承継を何から始めればいいのか分からない。」

「まだ元気だから大丈夫だと思っていた。」

「後継者は決まっているが、その先が分からない。」

最初の頃の私は、自社株評価や相続税の計算、組織再編など、専門知識を一生懸命説明していた。

それが自分の役割だと思っていたからである。

ところが、ある時、一人の社長から言われた言葉が、私の考え方を大きく変えた。

「橋本さん、難しい話はいい。

私は、この会社をどうしたら次の世代へ残せるのか、それを知りたいんだ。」

その一言に、私ははっとした。

私が説明していたのは制度だった。

しかし社長が知りたかったのは、会社の未来だったのである。

事業承継とは、税金の話ではない。

株式だけの問題でもない。

経営者が一生かけて築いてきた会社を、どう次の世代へつないでいくか。

そのための経営そのものなのだ。

それから私は、お客様への向き合い方を変えた。

まず社長の話を聞く。

会社を創業した想い。

社員への想い。

家族への想い。

十年後、二十年後に会社をどうしたいのか。

そこから一緒に考えるようになった。

すると、不思議なことに、社長の表情が変わった。

「ようやく分かってもらえた。」

そんな言葉をいただくことが増えたのである。

一方で、相談が遅すぎるケースにも数多く出会った。

社長が高齢になってから。

病気になってから。

相続が発生してから。

株主間で争いが始まってから。

そのたびに耳にした言葉がある。

「もっと早く相談していれば…」

私は、その言葉を何度聞いただろう。

そのたびに思った。

事業承継は、困ってから始めるものではない。

元気なうちに始めるものだ。

それが会社を守り、社員を守り、家族を守ることにつながる。

現在、私が「知らないリスク」と「放置リスク」を繰り返しお伝えしているのも、この頃の経験が原点である。

経営者は決断する人である。

しかし、知らなければ決断はできない。

そして、決断を先送りすればするほど、選択肢は少なくなる。

私は銀行員として二十八年間、多くの事業承継を見てきた。

成功した会社もあれば、残念ながら間に合わなかった会社もあった。

だからこそ今、私は経営者の皆さんにお伝えしたい。

「まだ早い」と思っている今が、一番始めるべき時期なのだと。

この仕事は、単なる銀行業務ではなかった。

私にとっては、一人ひとりの経営者の人生と向き合う仕事だった。

そして私は、この仕事を一生の仕事にしようと心に決めたのである。

次回予告

第17回 忘れられない事業承継案件

私が担当した数多くの案件の中で、今でも忘れられない一人の社長がいる。

その案件は、「専門家任せでは会社は守れない」という、現在の私の信念を決定づける出来事となった。