会社が順調な時こそ、事業承継を考えなさい
――「まだ大丈夫」と思える今が、実は最高のタイミング
「今は会社も順調だから、事業承継はもう少し先でいいですよ。」
私はこれまで、何度この言葉を聞いてきたでしょうか。
業績は悪くない。
借入にも問題はない。
社長も元気。
後継者候補の子どももいる。
だから、
「まだ大丈夫。」
社長からすれば、当然の感覚かもしれません。
しかし、銀行員時代から30年以上、数多くの事業承継に関わってきた私は、むしろ逆だと考えています。
会社が順調な時こそ、事業承継を考える最高のタイミングです。
なぜなら、会社が順調な時には「選択肢」があるからです。
後継者を時間をかけて育てることができる。
自社株を計画的に移すことができる。
株主構成を整理することができる。
持株会社化や組織再編を検討することもできる。
必要であれば、M&Aや外部資本の活用という選択肢まで考えられる。
そして何より、社長自身が冷静に考える時間があります。
ところが、何か問題が起きてからでは事情がまったく違います。
社長の健康問題。
突然の相続。
後継者との対立。
業績悪化。
金融機関との関係悪化。
こうした問題が表面化すると、事業承継は「未来を考える経営戦略」ではなく、
「目の前の問題を処理する緊急対応」になってしまいます。
そうなれば、当然、選択肢は少なくなります。
私はこれまで、そのような場面を何度も見てきました。
そして、その時に社長やご家族から出てくる言葉は、ほとんど同じです。
「もっと早く考えておけば良かった。」
事業承継で失われる最大のものは、お金だけではありません。
時間と選択肢です。
時間があれば、いろいろな方法を比較できます。
失敗しても修正できます。
後継者にも経験を積ませることができます。
会社そのものを、次の世代が経営しやすい形へ変えることもできます。
しかし、時間がなくなれば、「最善の方法」ではなく「今できる方法」を選ばざるを得なくなります。
ここに、私が以前から申し上げている「放置リスク」があります。
「まだ大丈夫。」
この言葉は安心感を与えてくれます。
しかし、その「まだ大丈夫」の間にも、時間は確実に過ぎています。
社長も年齢を重ねます。
後継者も年齢を重ねます。
社員も年齢を重ねます。
市場も変わります。
会社の価値も変わります。
つまり、何もしなくても会社を取り巻く環境は動き続けているのです。
だから私は、事業承継を「困ってから相談する問題」にしてほしくありません。
事業承継は、問題が起きてから解決するものではない。
問題が起きないうちに、会社の未来を設計するものです。
会社が順調だからこそ、5年後、10年後を考える。
社長が元気だからこそ、後継者と話をする。
利益が出ているからこそ、次の成長へ投資する。
そして、選択肢がたくさんある今だからこそ、会社の未来を自分で選ぶ。
私は、それが本来の事業承継だと思っています。
事業承継は「引退準備」ではありません。
会社が元気なうちに始める、次の成長戦略です。
「まだ大丈夫」と思っている社長にこそ、一度考えていただきたい。
もし5年後、突然何かが起きても、この会社は大丈夫でしょうか。
後継者は困らないでしょうか。
社員は安心して働き続けられるでしょうか。
そして、ご家族は困らないでしょうか。
その問いに自信を持って「大丈夫」と答えられないのであれば、始めるのは5年後ではありません。
今です。
会社が順調な今だからこそ、未来のための決断ができます。
その時間を、どうか無駄にしないでください。
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