実録事例シリーズ 第20回・最終回

19の事業承継を振り返って、社長にどうしても伝えたいこと

― 事業承継に「同じ答え」は一つもなかった ―

これまで19回にわたり、私が実際に関わってきた事業承継・M&Aの事例をご紹介してきました。

成功した会社もあります。

失敗した会社もあります。

M&Aで会社を託した社長。

息子に承継した社長。

従業員に会社を託した社長。

持株会社をつくり、グループを再編した会社。

一方で、何も決めないまま社長が亡くなり、家族が争うことになった会社もありました。

19の事例を改めて振り返ってみると、私は強く感じることがあります。

事業承継に、同じ答えは一つもありません。



「後継者がいるから安心」ではなかった

息子がいる。

娘がいる。

娘婿がいる。

幹部社員がいる。

だから大丈夫。

そうとは限りませんでした。

実際に、息子を社長にしたものの、創業会長と経営方針が衝突し、
後継社長が会社を辞めてしまったケースもありました。

一方で、親族に後継者がいなくても、従業員承継によって見事に会社を残し、
以前より高収益企業へ成長した会社もあります。

大切なのは、

「誰がいるか」ではなく、「誰に、どう託すか」

なのです。



「家族だから大丈夫」でもなかった

これも何度も見てきました。

仲の良かった兄弟が、社長の死後、株式を巡って裁判になった。

後継者として株式を相続した娘婿と、実の娘に離婚問題が起きた。

親が持っていた株式を整理しないまま相続が発生し、会社経営に大きな影響を及ぼした。

家族だから揉めない。

私は、そうは思いません。

むしろ、家族だからこそ感情が入ります。

だからこそ、社長が元気なうちに話し合い、株式と経営権を整理しておく必要があります。



「専門家がいるから安心」でもなかった

顧問税理士がいる。

銀行がいる。

証券会社が来ている。

それでも事業承継が進んでいない会社を、私は数多く見てきました。

相続税を5億円納めた後に評価を見直し、更正の請求によって1億5,000万円が還付された会社もありました。

逆に、私の提案を自社だけで実行しようとして途中で止まり、その後10年間で株価が約3億円から約10億円まで
上昇した会社もありました。

専門家に任せればいいわけでもない。

自分だけでやればいいわけでもない。

最後に決断するのは社長です。

だから社長自身が「分かる」ことが大切なのです。



「M&A=会社を売る」でもなかった

このシリーズでは、いくつものM&Aをご紹介しました。

余命半年を宣告された社長が、奥様の将来を考えて会社を譲渡したケース。

町唯一の葬祭会社でしたが、今でも社名も従業員も取引先も残っています。

5年間かけて複雑な不動産・株式関係を整理し、ようやく成立したM&Aもありました。

一方で、160億円の提示まで進みながら、最終契約直前に外部要因で成立しなかった案件もありました。

M&Aは単なる売却ではありません。

会社、従業員、取引先、そして家族の未来を、誰に託すかを決める方法の一つです。



そして、事業承継は「守り」だけではなかった

私がこの19事例の中で、最も伝えたいことがあります。

事業承継は、

「社長が引退するための対策」

ではありません。

ある会社では、9億円だった株価を約1億円まで引き下げ、持株会社を活用して株式承継を進めました。

その後、関連する会社までグループに取り込み、現在では年商120億円、業界No.1の企業へ成長しています。

事業承継をきっかけに、

・持株会社化

・会社分割

・M&A

・従業員承継

・グループ再編

・IPO

など、会社の可能性を大きく広げることができます。

事業承継は「終わり」ではありません。

第二創業のスタートにすることができるのです。



19の事例に共通していた「二つのリスク」

私は最近、事業承継について二つの言葉を使っています。

「知らないリスク」と「放置リスク」です。

自社株がいくらなのか知らない。

株主構成の問題を知らない。

相続が発生したらどうなるか知らない。

M&Aという選択肢を知らない。

これが「知らないリスク」です。

そして、

分かっているけれど動かない。

そのうちやろうと思っている。

まだ元気だから大丈夫。

これが「放置リスク」です。

19の事例を振り返ると、大きな問題になった会社の多くに、この二つがありました。



最終回の提言

私は銀行員時代から現在まで、数多くの中小企業オーナーと事業承継について話をしてきました。

その経験から、今、社長に一番伝えたいことがあります。

事業承継で一番怖いのは、

「知らないこと」と「決めないこと」です。

完璧な答えを最初から出す必要はありません。

親族内承継なのか。

従業員承継なのか。

M&Aなのか。

持株会社なのか。

IPOなのか。

まず、自分の会社の現在地を知ることです。

そして、

「自分は、この会社を10年後どうしたいのか」

を考えてみる。

そこから事業承継は始まります。

会社の未来は、社長の決断次第で大きく変わります。

19の実録事例を読んでいただいた社長の皆さん。

そろそろ、本気で自社の事業承継に向き合ってみませんか。

20回にわたり「実録事例シリーズ」をお読みいただき、本当にありがとうございました。



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