~会社に現預金が多いと、株式価値はどう変わるのか?~
「うちの会社は無借金で、預金もかなりあります」
長年、堅実に経営してきた社長ほど、このような会社をつくっています。
では、会社に現預金が5億円あれば、その5億円はM&Aのときに会社の価格へそのまま上乗せされるのでしょうか。
ここで知っておきたいのが、「ネットキャッシュ」という考え方です。
① ネットキャッシュとは何か?
簡単に言えば、
現預金等から有利子負債等を差し引いた実質的な余剰資金
を考えるものです。
例えば、
現預金 5億円
借入金 2億円
であれば、単純化すると、
ネットキャッシュ=3億円
と考えることができます。
反対に、現預金より借入金の方が多ければ、「ネットデット」の状態になります。
② なぜM&Aで重要なのか?
前回お話ししたように、M&Aでは、
事業の収益力から企業価値を考え、そこから財務内容を調整して株式価値を考える
という方法があります。
例えば、
EBITDA 1億円
倍率 5倍
企業価値 5億円
とします。
さらにネットキャッシュが3億円あれば、単純化すると、
株式価値=5億円+3億円=8億円
という考え方ができます。
つまり、同じ利益を出している会社でも、財務内容によって株式価値は大きく変わるのです。
③ ただし「現預金=すべて余剰資金」ではない
ここは非常に重要です。
会社に5億円の現預金があるからといって、その全額を自由に使えるとは限りません。
給与、仕入代金、税金、借入返済など、事業を継続するために必要な運転資金があります。
例えば、月商1億円の会社なら、
「最低でも月商の2~3か月分程度は事業会社に残しておこう」
という判断も考えられます。
したがって、M&Aでは単純な現預金残高だけではなく、
「事業を続けるために必要な現預金はいくらか」
を考えることが重要です。
④ 余剰現預金をどうするのか?
ここからが事業承継では重要になります。
長年利益を蓄積してきた優良企業では、事業に必要な金額を大きく超える現預金や有価証券、不動産などを
保有しているケースがあります。
そのまま事業会社に残すのか。
配当するのか。
役員退職金に活用するのか。
資産管理会社へ移すのか。
会社分割などによって事業と資産を分けるのか。
これは単なる節税の問題ではありません。
「事業に必要な資産」と「オーナー家の資産」をどう整理するのかという資本戦略の問題です。
⑤ 現預金を貯めるだけが良い経営ではない
銀行員時代、私は現預金が多く、借入金の少ない会社をたくさん見てきました。
もちろん、財務体質が強いことは素晴らしいことです。
しかし、会社にお金を貯め続ければ、自社株評価が高くなり、将来の事業承継を難しくすることもあります。
一方で、成長投資に必要な資金まで外へ出してしまえば、会社の成長力を弱めます。
だから大切なのは、
「会社にいくらお金があるか」ではなく、「会社にいくらお金を残すべきか」
という視点です。
今週の結論
ネットキャッシュを知ると、決算書の見方が変わります。
利益だけを見るのではなく、
事業の価値はいくらか。
事業に必要な現預金はいくらか。
余剰資金はいくらあるのか。
そして、株式価値はいくらになるのか。
ここまで考えることが、これからの経営者には必要です。
事業承継やM&Aを考えるとき、会社に蓄積した資産をそのまま次世代へ渡すことだけが正解ではありません。
「事業」と「資産」をどう整理し、次の世代へ何を残すのか。
これも、社長にしか決められない重要な経営戦略なのです。
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