第21回 企業価値と株式価値は何が違う?

~会社が10億円なら、社長に10億円入るのか?~

「うちの会社は10億円くらいの価値があります」

M&A会社からそう言われたら、社長はどう思うでしょうか。

「会社を売ったら10億円入ってくるのか」

そう考えるかもしれません。

しかし、ここには大きな注意点があります。

「企業価値」と「株式価値」は同じではありません。



① 企業価値とは「事業そのものの価値」

第16回で、EBITDA倍率についてお話ししました。

例えば、

EBITDA 2億円
評価倍率 5倍

とすると、単純化すれば、

企業価値(EV)=10億円

という考え方になります。

これは簡単に言えば、

「この会社の事業そのものには、どれくらいの価値があるのか」

を表したものです。

しかし、会社には事業だけでなく、現預金もあれば借入金もあります。

そこで次に考えるのが「株式価値」です。



② 株式価値は「株主に帰属する価値」

例えば、

企業価値 10億円
現預金  3億円
借入金  5億円

の会社があったとします。

単純化すると、

10億円+3億円-5億円=8億円

この8億円が株式価値を考える一つの目安になります。

つまり、

株式価値 = 企業価値 + 現預金等 - 有利子負債等

という考え方です。

借入金が多ければ、株式価値は企業価値より低くなる可能性があります。

逆に、実質無借金で多額の現預金を持っている会社なら、株式価値が企業価値を上回ることもあります。



③ 「借金がある会社は価値が低い」のか?

ここも誤解されやすいところです。

借入金があるから、その会社の事業そのものの価値が低いとは限りません。

高い収益力を持つ会社が、成長投資のために借入をしている場合もあります。

企業価値を見るときは事業の収益力を考え、株式価値を考える段階で財務内容を調整する。

この二つを分けて考えることが重要です。



④ M&Aでは「ネットデット・ネットキャッシュ」が重要

実際のM&Aでは、単純に預金と借入金だけを見るわけではありません。

余剰現預金、有利子負債、役員借入金、リース債務などを確認し、案件ごとに「ネットデット」あるいは
「ネットキャッシュ」を整理します。

だからこそ、M&Aで会社の価格を考える場合、

EBITDA → 企業価値 → 財務調整 → 株式価値

という順番を理解しておくと分かりやすいのです。



今週の結論

社長から、

「うちの会社はいくらですか?」

と聞かれることがあります。

しかし、本当は一つの数字だけでは答えられません。

「事業そのものはいくらなのか」

そして、

「株主が持っている株式はいくらなのか」

この二つは分けて考える必要があります。

M&Aを考えていない社長にも、ぜひ一度、自社の企業価値と株式価値を試算していただきたいと思います。

決算書を「利益を見るためのもの」から、「会社の価値を考えるためのもの」へ変えてみる。

それだけでも、経営の見え方は大きく変わります。

自分の会社の価値を知ることは、事業承継を考える第一歩でもあるのです。



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