第6回:橋本裕二が出会った社長100人

「決めたら動く」――K会長の創業者魂

今回ご紹介するのは、K会長である。

食品製造で有名なH社。

K会長の記事を改めて読み返してみると、そこには、

「職業をして品位あらしめよ」

という言葉が大きく掲げられている。

私がK会長と接していて強く感じたのも、単に会社を大きくした経営者というだけではない。

創業者特有の鋭さと、圧倒的な決断の速さ。

それが、今でも強く印象に残っている。

「こんなものが売れるのか?」を事業にする

H社の歩みを見ると、K会長の経営者としての特徴がよく分かる。

食品を冷凍する。

今でこそ珍しくないが、当時としては常識にとらわれない発想だったはずだ。

さらに、野菜の冷凍などの商品を開発し、海外にも目を向けた。

1990年代には海外進出を検討し、ベトナムでの生産にも乗り出している。

資料には、

「零細企業こそ速やかに海外戦略を練るべし」

という考え方も紹介されている。

大企業だから海外へ出るのではない。

規模が小さくても、必要なら海外へ出る。

考えて、決断して、すぐ行動する。

K会長には、そんな創業者らしい迫力があった。

ある日、突然呼ばれた

私自身にも、K会長の決断力を強烈に感じた出来事がある。

ある日、会長から、

「橋本君、ちょっと相談がある。」

と呼ばれた。

話を聞いてみると、

「子会社を誰も継がない。売却したい。」

という話だった。

事業承継の相談である。

そして、会長は続けてこう言った。

「銀行の役員には言わないでくれ。」

これには驚いた。

H社は、銀行にとって重要なお客様だった。

いわゆるVIP先であり、役員が直接対応するような取引先である。

しかも私は、銀行を退職することは決めていたものの、その時点ではまだ銀行員だった。

そんな私に、子会社のM&Aという重要な相談をされたのである。

「誰も継がない。だったら売る」

今振り返ってみても、この判断が実に川邊会長らしい。

誰も継ぐ人がいない。

だったら、どうするのか。

何年も先送りするのではない。

何となく子会社として持ち続けるのでもない。

「誰も継がない。だったら売却する。」

極めてシンプルである。

私は事業承継の仕事をするようになって、多くの経営者から相談を受けてきた。

その中で難しいと感じるのは、「選択肢がないこと」よりも、むしろ「決められないこと」である。

考え続ける。

迷い続ける。

そして何年も経ってしまう。

K会長は違った。

考えるべきことは考える。

しかし、決めるときには決める。

このスピード感は、やはり一代で事業をつくってきた創業者ならではのものだったと思う。

その年は、何も起こらなかった

ただ、その相談を受けた年に、子会社の売却が動くことはなかった。

私自身も、その後銀行を退職した。

だから、

「あの話はどうなったのかな」

くらいに思っていた。

ところが翌年、驚いた。

K会長が売却したいと言われていた子会社が、付き合いのあった製粉会社にM&Aされていたのである。

私はまったく知らなかった。

後になって知った。

しかし、それを聞いたとき、

「やっぱりK会長だな」

と思った。

言ったことを、本当に実行する

あの時、

「誰も継がないから売却したい」

と話されていた。

その年には動かなかった。

しかし、翌年には本当に売却していた。

私が関わったわけでもない。

だから、この話は私のM&A実績でも何でもない。

むしろ私が強く感じたのは、

「この人は、言ったことを本当にやる人なんだ」

ということだった。

冷凍○○に挑戦する。

海外へ進出する。

後継者のいない子会社はM&Aする。

一見すると、それぞれ別の話である。

しかし、根っこは同じだったのではないかと思う。

必要だと思えば、決断する。
決断したら、実行する。


それがK会長という創業者だった。

創業者には独特の「勘」がある

銀行員時代から現在まで、私は多くの経営者と接してきた。

その中でも、一代で会社を築いた創業者には、独特の凄みを持った人がいる。

もちろん数字を見る。

人の話も聞く。

専門家にも相談する。

しかし最後は、自分で決める。

しかも、その判断が速い。

私はそれを単なる「勘」だとは思っていない。

何十年も自分の会社のことを考え続け、失敗もし、成功もし、数え切れないほどの意思決定をしてきた。

その積み重ねが、外から見ると「鋭い勘」に見えるのではないか。

K会長には、それがあった。

経営者の仕事は「決めること」

事業承継でもM&Aでも、専門家はいろいろなことを言う。

銀行も提案する。

税理士も提案する。

M&A会社も提案する。

しかし、最後に会社の未来を決めるのは経営者本人である。

資料に残るK会長の言葉や歩みを見ても、自分で考え、自分の道を進む姿勢が一貫している。

K会長との付き合いを通じて、私が改めて教えられたことがある。

経営者の一番大切な仕事は、最後に「決める」ことではないか。

100%正しい答えが出るまで待っていたら、経営は前に進まない。

考える。

決める。

そして動く。

「決めたら動く。」

K会長を思い出すと、今でもこの言葉が浮かんでくる。

まさに、創業者魂を感じさせる経営者だった。