第26回:大型案件の破談から立ち直れない

/

― 「私を必要としてくれる会社がある」その言葉に救われた

最終契約のわずか2日前。

9か月間、ほとんどすべてを懸けて取り組んできた大型M&A案件がブレークした。

最終的な株式価値は100億円を超える規模。

成約すれば、私が受け取る成功報酬は約2億円になる予定だった。

創業してから資金繰りに苦しみ続けてきた私にとって、2億円という金額はあまりにも大きかった。

「これで会社が変わる。」

「ようやく軌道に乗る。」

「これから本当に自分のやりたい仕事ができる。」

そう思っていた。

それが、最終契約直前に一瞬にして消えた。

もちろん、2億円を失ったショックは大きかった。

しかし、今振り返ると、本当に私を苦しめたのは、お金だけではなかったように思う。

約9か月間、この案件に自分のほとんどすべてを注ぎ込んでいた。

他の仕事はほとんどしなかった。

この案件を絶対に成功させる。

そのことだけを考えていた。

だから、案件がなくなった瞬間、

「明日から何をすればいいのだろう。」

本当に分からなくなった。

次の仕事を探せばいい。

営業に行けばいい。

頭では分かっている。

しかし、身体が動かない。

気持ちが前を向かない。

創業してから、何度も苦しい経験をしてきた。

最初の一年で資金をほぼ使い果たした。

M&A案件が三件続けてブレークした。

顧問契約を解除されたこともあった。

それでも、何とか立ち上がってきた。

しかし、この時は違った。

立ち直るまでに、1年近くかかった。

当時、創業時から一緒だったM氏との資本関係もすでに整理し、会社は私単独の会社になっていた。

すべて自分で決められる。

しかし、その代わり、すべての責任も自分一人で背負わなければならない。

そして再び、資金繰りの問題が目の前に現れた。

大型案件が成約することを期待していた私には、十分な余裕資金などなかった。

結局、親からお金を借りて、何とか会社をつないだ。

50歳を過ぎて起業し、親からお金を借りる。

情けないという思いもあった。

銀行員時代、私は多くの会社に融資をしてきた。

資金繰りに苦しむ社長にも、数え切れないほど会ってきた。

そんな私自身が、親から借りたお金で会社を維持している。

「自分はいったい何をやっているのだろう。」

そう思うこともあった。

大型案件の成功報酬2億円が入っていれば――。

何度そう考えたか分からない。

しかし、そんなことを考えても、案件は戻ってこない。

分かっていても、気持ちを切り替えることができなかった。

私は、完全に目標を見失っていたのだと思う。

そんな状態が、1年近く続いた。

その私を再び前に向かせてくれたのも、やはり一人の経営者だった。

H社から、

「監査役をお願いしたい。」

という話をいただいたのである。

H社は当時、年商50億円ほどの企業だった。

銀行員時代からお付き合いがあり、会社のこともよく知っていた。

しかし、監査役という立場で自分を必要としていただけるとは思っていなかった。

この話をいただいた時、嬉しかった。

報酬の問題ではない。

「自分を必要としてくれる会社がある。」

そのことが嬉しかった。

大型M&A案件がなくなってから、私はどこかで自信を失っていたのだと思う。

自分の経験に価値があるのか。

自分の知識は本当に企業の役に立つのか。

そもそも独立したこと自体、間違いだったのではないか。

そんな思いさえあった。

しかし、H社は私を必要としてくれた。

銀行の看板があるからではない。

どこかの組織に所属しているからでもない。

「橋本」という一人の人間を見て、声をかけていただいた。

それが、私には大きかった。

そして私は、もう一度思った。

「やっぱり、地元企業のために仕事をしよう。」

銀行員時代から、私はたくさんの地元企業に育ててもらった。

たくさんの社長から経営を教えていただいた。

独立して苦しい時には、仕事をくださった。

保険に入って応援してくださった。

顧問料を払ってくださった。

そして今度は、監査役として必要としてくださる会社がある。

だったら、もう一度やってみよう。

大きな案件ばかりを追いかけなくてもいい。

目の前の会社、目の前の社長の役に立つことから、もう一度始めればいい。

そう考えられるようになった。

今振り返ると、大型案件の破談は、私にとって非常に大きな失敗だった。

約2億円の成功報酬を失った。

会社の資金も苦しくなった。

そして何より、1年近く前を向けなくなった。

しかし、その経験があったから分かったこともある。

大型案件が一件あれば、会社は大きく変わる。

しかし、その一件に会社の未来まで懸けてはいけない。

M&Aは最後の最後まで何が起きるか分からない。

そして、売上の大きさだけが仕事の価値ではない。

「自分を必要としてくれる人のために働く。」

結局、私はそこへ戻ってきた。

創業以来、何度も転び、何度も迷った。

それでも、地元企業の社長たちに助けられて、また立ち上がることができた。

私が中小企業オーナーのために仕事をしたいと思う理由は、こうした経験の積み重ねにある。

銀行員だから分かるのではない。

コンサルタントだから分かるのでもない。

自分自身も経営者として苦しみ、資金繰りに悩み、仕事を失い、そして人に助けてもらった。

だからこそ、社長の隣で一緒に悩める。

大型案件の破談から約1年。

私はようやく、もう一度歩き始めた。

そしてここから、私の仕事に対する考え方も少しずつ変わっていくことになる。

次回予告

第27回 もう一度、地元企業のために

大型M&Aの成功報酬2億円を追いかけた私が、年商50億円のH社からいただいた「監査役をお願いしたい」という言葉によって立ち直った。

大きな案件を追うことよりも、目の前の経営者から必要とされること。

私はもう一度、自分が何のために独立したのかを考え始めることになる。