第27回:もう一度、地元企業のために

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― 必要とされることが、何より嬉しかった

大型M&A案件の破談から、私は1年近く立ち直ることができなかった。

成功報酬は約2億円。会社の資金繰りも苦しくなり、親からの借入で何とか凌いだ。

「これから何をすればいいのか。」

完全に自信を失っていた私に、転機が訪れた。

銀行員時代からお付き合いのあったH社から、「監査役をお願いしたい」と声をかけていただいたのである。

H社は当時、年商50億円ほどの地元企業だった。

嬉しかった。

もちろん仕事をいただけることもありがたかったが、それ以上に、

「私を必要としてくれる会社がある。」

そのことが嬉しかった。

銀行の看板はもうない。

大型案件もなくなった。

それでも「橋本に来てほしい」と言ってくださる会社がある。

その時、私はようやく気づいた。

自分は何のために銀行を辞めたのか。

大きなM&Aを成約して、大きな成功報酬を得るためではなかった。

銀行員時代にお世話になった地元企業のために、自分の経験や知識を役立てたかったからではないか。

私はH社の監査役として、再び企業経営の現場に深く関わるようになった。

外から提案するコンサルタントとは違う。

会社の中に入り、経営者や幹部と話し、会社が抱える問題を一緒に考える。

そこで改めて感じた。

中小企業の経営課題は、事業承継だけではない。

人材、組織、財務、株主、後継者、そして経営者自身の将来。

すべてがつながっている。

だからこそ、事業承継も単なる「株式を渡す話」で終わらせてはいけない。

会社を次の世代へどうつなぎ、さらに成長させるのか。

そこまで一緒に考える必要がある。

大型案件の破談は、本当に苦しかった。

しかし、あの失敗がなければ、私は成功報酬の大きさばかりを追いかけていたかもしれない。

目の前の社長から必要とされること。

会社の未来を一緒に考えること。

それこそが、私がやりたかった仕事だった。

私はもう一度、地元企業のために働こうと決めた。

そして、この頃から少しずつ、現在の私の仕事につながる考え方が形になり始めた。

「事業承継は、会社を終わらせるためのものではない。会社をもう一度成長させるための経営戦略である。」

この考えが、その後の私の仕事の大きな軸になっていく。

次回予告

第28回 事業承継は「引退」ではない

多くの社長と向き合う中で、私は事業承継に対する一つの違和感を強くしていった。

なぜ、事業承継というと「相続」「税金」「引退」の話ばかりになるのか。

私は、事業承継を「会社を飛躍させる経営戦略」として考えるようになっていった。