創業4年目、私に大きなチャンスが訪れました。
銀行員時代に3年ほどお付き合いのあったT社長を、起業してから初めて訪問したのです。
お会いするのは、約4年ぶりでした。
当時、T社長は65歳。
自ら会社を立ち上げ、一代で年商200億円の企業に育て上げた、まさにカリスマ経営者でした。
当然、さまざまな銀行や証券会社が訪問し、事業承継や自社株対策の提案を行っていました。
その少し前、私は東京で開催されたインテグラル主催の「PEファンド」に関するセミナーに参加していました。
当時は、PEファンドという言葉を知っている経営者は、まだほとんどいませんでした。
銀行員でさえ、その仕組みや役割を十分に理解している人は少ない時代でした。
私は、T社長にPEファンドを活用した事業承継を提案してみました。
すると、私が訪問する少し前にも、メガバンク系のファンドが同じような提案に来ていたことが分かりました。
そのファンドが提示した株式価値は、30億円だったそうです。
PEファンドという新しい選択肢に興味を持ったT社長は、私の提案を受け入れてくれました。
私が候補として提案したのは、大手PEファンド3社です。
各ファンドが提示した株式価値は、
Aファンドが100億円。
Bファンドが120億円。
Cファンドが150億円。
最初の提示額であった30億円とは、あまりにも大きな差がありました。
同じ会社であっても、相手によって会社の見方や評価は大きく異なります。
適切な候補先を選び、競争環境をつくることが、会社の価値を正しく評価してもらうためにいかに重要であるかを、
私はこの案件で実感しました。
5月に提案し、9月から本格的な資料作成と交渉を開始。12月にはデューデリジェンスを実施しました。
翌年3月の最終契約、クロージングに向けて、交渉は順調に進んでいました。
ところが、2月。
LBOローンなどの最終的な条件を詰めていた段階で、些細ではありましたが、
コンプライアンス上の問題が発覚しました。
金融機関のコンプライアンス部門の決裁が下りませんでした。
そして、案件は突然、ブレークしました。
最終契約書のリーガルチェックを行う、わずか2日前のことでした。
「ここまで来て、なぜ……」
言葉になりませんでした。
約9か月間、私はこの案件にかかりきりでした。その間、ほとんどほかの仕事をせず、
何としても成約させようと全力で取り組んできました。
それが、最終契約の直前ですべて消えてしまったのです。
創業4年目に訪れた、これまでにない大きなチャンス。
ようやくコンサルタントとして飛躍できる。そう思っていた矢先の破談でした。
またしても試練が訪れました。
このとき受けたショックは、起業してから経験した中でも、特に大きなものでした。
しかし、この失敗が、後の私のM&Aに対する考え方を大きく変えることになります。
M&Aは、企業価値や条件だけで決まるものではない。
どれほど交渉が順調に進んでいても、最後の最後まで何が起こるか分からない。
そして、大型案件ひとつに会社のすべてを懸けることが、どれほど危険なことなのか。
私は、身をもって学ぶことになりました。
第25回:最終契約の2日前に消えた大型案件
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