「メリット・デメリット」で事業承継を決めてはいけない
―― 最後に経営者を動かすのは「理念」である
これまで私は、この「今週の提言」の中で、事業承継には、
「知らないリスク」
と、
「放置リスク」
があると何度も申し上げてきました。
自社株の価値を知らない。
株主構成の問題を知らない。
相続が起きた時に何が起こるのか知らない。
親族内承継、EBO、M&A、組織再編など、自社が取り得る選択肢を知らない。
これが「知らないリスク」です。
そして、
「まだ元気だから。」
「もう少し先でいい。」
「費用がかかるから。」
「後継者が決まってから考えよう。」
そう言って問題を先送りする。
これが「放置リスク」です。
そして、この二つのリスクをそのままにしていると、私は会社の中に見えないコストが積み上がっていくと
考えています。
私は、それを、
「事業承継コスト」
と呼んでいます。
株価が上がる。
株主が増える。
後継者を育てる時間がなくなる。
組織改革が遅れる。
M&Aや組織再編など、使えたはずの選択肢が使えなくなる。
これらは、すぐには決算書に出てきません。
しかし、時間が経過するほど、会社の将来に大きな影響を与えていきます。
「それをやるメリットは何ですか?」
事業承継の提案をしていると、社長から非常によく聞かれる質問があります。
「それをやるメリットは何ですか?」
「デメリットは何ですか?」
もちろん、当然の質問です。
持株会社をつくる。
会社分割をする。
株式を後継者へ移す。
EBOを行う。
M&Aをする。
どんな方法にも、メリットとデメリットがあります。
税金はどうなるのか。
費用はいくらかかるのか。
手続きは大変ではないか。
金融機関はどう見るのか。
社員はどう思うのか。
こうしたことを比較するのは、とても重要です。
しかし、私は多くの事業承継の相談を経験する中で、一つ感じていることがあります。
メリット・デメリットに固執しすぎると、かえって大局を見失うことがある。
ということです。
メリットだけの事業承継などない
そもそも、デメリットのない経営判断など、ほとんどありません。
持株会社をつくれば、メリットもあれば、管理コストも増えます。
M&Aをすれば、会社の成長可能性が広がる一方で、経営権を第三者へ託すという大きな決断が必要になります。
子どもへ承継すれば、会社の歴史をつなぎやすい反面、その子に経営者としての資質があるのかという問題が
あります。
EBOにも、資金調達や経営者保証など、乗り越えなければならない課題があります。
つまり、
どの選択肢にもメリットがあり、どの選択肢にもデメリットがあります。
そこで、
「もっとメリットの多い方法はないか。」
「もっとデメリットの少ない方法はないか。」
と探し続ける。
すると、どうなるでしょうか。
検討する。
比較する。
また検討する。
専門家に聞く。
別の専門家にも聞く。
そして、また迷う。
その結果、
意思決定をしない。
あるいは、
意思決定ができない。
という状態になってしまうことがあります。
私は、これも「放置リスク」の一つだと思っています。
大きな決断をする社長には、共通点がある
私はこれまで、大きな事業承継スキームを決断する経営者を何人も見てきました。
持株会社化。
大胆な組織再編。
後継者への経営権移譲。
EBO。
M&A。
こうした決断には、当然リスクがあります。
費用もかかります。
100%成功する保証もありません。
それでも決断できる経営者がいます。
そういう社長には、一つの共通点があるように私は感じています。
それは、
「理念が強い」
ということです。
「何のためにやるのか」が決まっている
理念が強い経営者は、
「どちらが得か。」
だけでは考えていません。
「この会社をどうしたいのか。」
「社員をどう守りたいのか。」
「この会社を10年後、どんな会社にしたいのか。」
「次の世代に何を残したいのか。」
という、もっと大きな視点から考えています。
だから、多少のデメリットがあっても決断できます。
「何のためにやるのか」が決まっているからです。
例えば、
「この会社を100年残したい。」
「社員が安心して働ける会社にしたい。」
「子どもには会社を守るだけでなく、さらに成長させてほしい。」
「この技術を地域から絶対になくしたくない。」
「自分がいなくなっても成長できる会社にしたい。」
こうした強い想いがあれば、
持株会社にするのか。
親族内承継にするのか。
EBOにするのか。
M&Aにするのか。
という方法論は、その理念を実現するための「手段」になります。
「How」の前に「Why」を決める
私は、事業承継で迷っている社長には、
「どの方法が一番得ですか?」
と考える前に、
「何のために事業承継するのですか?」
と考えていただきたいと思っています。
誰に継がせるか。
株をどうするか。
税金をどうするか。
会社をどう再編するか。
これらはすべて「How」、つまり方法論です。
しかし、その前に必要なのは、
「Why」――なぜ、この会社を残すのか。
です。
ここが決まらないまま方法論を比較すると、いつまで経っても答えは出ません。
逆に、ここが決まれば、選択肢の見え方は大きく変わります。
事業承継とは「社長の理念」を次の世代へつなぐこと
私は、事業承継とは株式を渡すことだけではないと思っています。
社長を交代することだけでもありません。
会社を売るか、残すかという話だけでもありません。
もっと根本にあるのは、
「自分は、この会社をどうしたいのか。」
という社長自身の理念です。
その理念が決まって初めて、
後継者をどうするのか。
組織をどうするのか。
株式をどうするのか。
M&Aをするのか。
会社をどう成長させるのか。
という答えが見えてきます。
メリット・デメリットを比較することは必要です。
しかし、
メリット・デメリットは「判断材料」であって、「判断基準」ではありません。
最後の判断基準になるのは、
社長が、この会社をどうしたいのか。
私は、そこだと思っています。
事業承継で迷った時こそ、細かな損得から一度離れてみてください。
そして、自分自身に問いかけてみてください。
「私は、この会社を10年後、どうしたいのか。」
その答えが見えた時、
事業承継の本当の意思決定が始まるのではないでしょうか。
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