第26回 今週の提言(2026年10月6日号)

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「メリット・デメリット」で事業承継を決めてはいけない

―― 最後に経営者を動かすのは「理念」である

これまで私は、この「今週の提言」の中で、事業承継には、

「知らないリスク」

と、

「放置リスク」

があると何度も申し上げてきました。

自社株の価値を知らない。

株主構成の問題を知らない。

相続が起きた時に何が起こるのか知らない。

親族内承継、EBO、M&A、組織再編など、自社が取り得る選択肢を知らない。

これが「知らないリスク」です。

そして、

「まだ元気だから。」

「もう少し先でいい。」

「費用がかかるから。」

「後継者が決まってから考えよう。」

そう言って問題を先送りする。

これが「放置リスク」です。

そして、この二つのリスクをそのままにしていると、私は会社の中に見えないコストが積み上がっていくと
考えています。

私は、それを、

「事業承継コスト」

と呼んでいます。

株価が上がる。

株主が増える。

後継者を育てる時間がなくなる。

組織改革が遅れる。

M&Aや組織再編など、使えたはずの選択肢が使えなくなる。

これらは、すぐには決算書に出てきません。

しかし、時間が経過するほど、会社の将来に大きな影響を与えていきます。



「それをやるメリットは何ですか?」

事業承継の提案をしていると、社長から非常によく聞かれる質問があります。

「それをやるメリットは何ですか?」

「デメリットは何ですか?」

もちろん、当然の質問です。

持株会社をつくる。

会社分割をする。

株式を後継者へ移す。

EBOを行う。

M&Aをする。

どんな方法にも、メリットとデメリットがあります。

税金はどうなるのか。

費用はいくらかかるのか。

手続きは大変ではないか。

金融機関はどう見るのか。

社員はどう思うのか。

こうしたことを比較するのは、とても重要です。

しかし、私は多くの事業承継の相談を経験する中で、一つ感じていることがあります。

メリット・デメリットに固執しすぎると、かえって大局を見失うことがある。

ということです。



メリットだけの事業承継などない

そもそも、デメリットのない経営判断など、ほとんどありません。

持株会社をつくれば、メリットもあれば、管理コストも増えます。

M&Aをすれば、会社の成長可能性が広がる一方で、経営権を第三者へ託すという大きな決断が必要になります。

子どもへ承継すれば、会社の歴史をつなぎやすい反面、その子に経営者としての資質があるのかという問題が
あります。

EBOにも、資金調達や経営者保証など、乗り越えなければならない課題があります。

つまり、

どの選択肢にもメリットがあり、どの選択肢にもデメリットがあります。

そこで、

「もっとメリットの多い方法はないか。」

「もっとデメリットの少ない方法はないか。」

と探し続ける。

すると、どうなるでしょうか。

検討する。

比較する。

また検討する。

専門家に聞く。

別の専門家にも聞く。

そして、また迷う。

その結果、

意思決定をしない。

あるいは、

意思決定ができない。

という状態になってしまうことがあります。

私は、これも「放置リスク」の一つだと思っています。



大きな決断をする社長には、共通点がある

私はこれまで、大きな事業承継スキームを決断する経営者を何人も見てきました。

持株会社化。

大胆な組織再編。

後継者への経営権移譲。

EBO。

M&A。

こうした決断には、当然リスクがあります。

費用もかかります。

100%成功する保証もありません。

それでも決断できる経営者がいます。

そういう社長には、一つの共通点があるように私は感じています。

それは、

「理念が強い」

ということです。



「何のためにやるのか」が決まっている

理念が強い経営者は、

「どちらが得か。」

だけでは考えていません。

「この会社をどうしたいのか。」

「社員をどう守りたいのか。」

「この会社を10年後、どんな会社にしたいのか。」

「次の世代に何を残したいのか。」

という、もっと大きな視点から考えています。

だから、多少のデメリットがあっても決断できます。

「何のためにやるのか」が決まっているからです。

例えば、

「この会社を100年残したい。」

「社員が安心して働ける会社にしたい。」

「子どもには会社を守るだけでなく、さらに成長させてほしい。」

「この技術を地域から絶対になくしたくない。」

「自分がいなくなっても成長できる会社にしたい。」

こうした強い想いがあれば、

持株会社にするのか。

親族内承継にするのか。

EBOにするのか。

M&Aにするのか。

という方法論は、その理念を実現するための「手段」になります。



「How」の前に「Why」を決める

私は、事業承継で迷っている社長には、

「どの方法が一番得ですか?」

と考える前に、

「何のために事業承継するのですか?」

と考えていただきたいと思っています。

誰に継がせるか。

株をどうするか。

税金をどうするか。

会社をどう再編するか。

これらはすべて「How」、つまり方法論です。

しかし、その前に必要なのは、

「Why」――なぜ、この会社を残すのか。

です。

ここが決まらないまま方法論を比較すると、いつまで経っても答えは出ません。

逆に、ここが決まれば、選択肢の見え方は大きく変わります。



事業承継とは「社長の理念」を次の世代へつなぐこと

私は、事業承継とは株式を渡すことだけではないと思っています。

社長を交代することだけでもありません。

会社を売るか、残すかという話だけでもありません。

もっと根本にあるのは、

「自分は、この会社をどうしたいのか。」

という社長自身の理念です。

その理念が決まって初めて、

後継者をどうするのか。

組織をどうするのか。

株式をどうするのか。

M&Aをするのか。

会社をどう成長させるのか。

という答えが見えてきます。

メリット・デメリットを比較することは必要です。

しかし、

メリット・デメリットは「判断材料」であって、「判断基準」ではありません。

最後の判断基準になるのは、

社長が、この会社をどうしたいのか。

私は、そこだと思っています。

事業承継で迷った時こそ、細かな損得から一度離れてみてください。

そして、自分自身に問いかけてみてください。

「私は、この会社を10年後、どうしたいのか。」

その答えが見えた時、

事業承継の本当の意思決定が始まるのではないでしょうか。



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