第8回:橋本裕二が出会った社長100人

「信頼関係を築くのに10年、理解してもらうのに3年」――昭和の頑固社長との事業承継

今回は、私が親密にお付き合いしている5人の社長のうち、O社長(78歳)をご紹介したい。

O社長との付き合いは15年前に始まった。

一言でいえば、昭和の頑固親父。典型的なワンマン社長である。

とにかく人を信用しない。こちらが何か提案すると、必ずと言っていいほど反論が返ってくる。
少しでも自分の考えと違えば、10倍になって返ってくる。

正直、最初の10年間は表面的な付き合いだった。

ところが5年ほど前から、少しずつ変化が現れた。

家族のこと、相続のこと、趣味のこと。これまで話さなかったことを、
少しずつ話してくれるようになったのである。

私が訪問すると、喜んで迎えてくれるようにもなった。

ようやく、本当の相談相手として認めてもらえたのかもしれない。

事業承継は、単なる税金や株式の問題ではない。家族の将来、財産、経営者自身の人生が絡む。

社長が心を開いてくれなければ、本当の事業承継提案などできない。

O社長には事業の後継者がいなかった。高齢でもあり、「知らないリスク」「放置リスク」が大きくなっていた。

私は長年の付き合いから、事業会社はM&Aが最善の選択肢だと考えていた。

一方、会社には金融資産や収益不動産があった。

そこで提案したのが、株式移転と会社分割による組織再編である。

総資産約6億円を、金融資産・収益不動産を中心とする約5億円の資産管理会社と、
約1億円の事業会社に分離した。

資産管理会社は専業主婦の一人娘に承継し、事業会社はM&Aで第三者に託す計画である。

しかし、この仕組みを理解してもらうまでに、実に3年間かかった。

何度も何度も、同じ説明を繰り返した。

O社長はメールを使わない。だから、その都度訪問して、顔を合わせて説明する。

反論されても、また説明する。その繰り返しだった。

そして今、O社長は何でも話してくれるようになった。

振り返れば、信頼関係を築くのに10年、具体的な承継対策を理解してもらうのに3年。

事業承継は、スキームを売る仕事ではない。経営者の人生に寄り添い、納得するまで伴走する仕事なのだ。

78歳の頑固社長との15年間が、私にその大切さを教えてくれている。