「M&Aをすれば、税金が安くなるらしい」
そんな話を聞いたことがある社長も多いのではないでしょうか。
その背景にある制度のひとつが、中小企業事業再編投資損失準備金です。
結論から申し上げると、この制度は
**“M&Aを後押しするための税制優遇”**であり、使い方次第では非常に強力です。
しかし同時に、「正しく理解していないと全く意味がない」制度でもあります。
まず、この制度の本質は何か。
簡単に言えば、
M&Aで取得した株式について、将来の損失に備えて一定額を損金算入できる
というものです。
つまり、利益が出ている会社がM&Aを実行した場合、
その一部を「将来の損失リスク」として先に経費化できるため、
一時的に法人税を圧縮することが可能になります。
ここだけを切り取ると、
「節税になるなら、とりあえずM&Aをやろう」
と考える社長も出てきます。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。
この制度はあくまで
“将来の損失に備える”ための準備金です。
つまり、
・将来その株式価値が毀損しなければ取り崩し
・結果的に課税が戻ってくる
という性質を持っています。
言い換えれば、これは
“税金の繰延べ”であって、永久的な節税ではないのです。
さらに重要なポイントがあります。
それは、
制度ありきでM&Aを判断してはいけないということです。
本来、M&Aは
・事業の成長
・人材の確保
・市場の拡大
といった“経営戦略”として意思決定すべきものです。
にもかかわらず、
「税金が安くなるから」という理由だけで動いた場合、
そのM&Aは高い確率で失敗します。
これは、私が銀行員時代から現在に至るまで、
数多くの現場で見てきた“共通の失敗パターン”です。
では、どう考えるべきか。
答えはシンプルです。
「経営戦略が先、税務は後」
まずは、
そのM&Aが本当に自社の成長につながるのかを見極める。
そのうえで、この制度を“補助的に活用する”。
この順番を間違えないことが極めて重要です。
中小企業事業再編投資損失準備金は、
正しく使えば強力な武器になります。
しかし、使い方を誤れば、
単なる“税金の先送り”で終わるだけでなく、
経営判断そのものを誤らせるリスクもあります。
「税制で会社を動かすな。戦略で会社を動かせ。」
これが、この制度に対する最も重要な考え方です。